スポーツ選手が指導により負傷した場合の損害賠償請求
スポーツ選手は、身体を資本として報酬を得ています。
そのため、試合中や練習中に負傷するようなプレーは選手自身もチームも望んでいないため、極力リスクを回避するようにしています。
とはいえ、どんなに気を付けていたとしても指導中や練習中に負傷することは少なくありません。
今回はスポーツ選手が指導により、負傷した場合の損害賠償請求について解説します。
スポーツ選手が負傷した場合の責任
スポーツ選手は、競技中や練習中に負傷するリスクを常に伴います。
この場合、負傷が起きた状況によって、責任の所在や対応が大きく異なります。
競技に関係ない私生活での負傷と、競技中・練習中での負傷とでは、その責任の考え方が変わります。
競技に関係ない私生活上で負傷した場合
競技に関係ない私生活上で負傷した場合、基本的に所属チームや指導者に責任は生じません。
たとえば、オフの日にプライベートで交通事故に遭った場合や、階段で転んで怪我をしたようなケースがこれにあたります。
このような場合、治療費や負傷によって失われた報酬などは、基本的に選手自身が対応することになります。
交通事故や事件に巻き込まれた場合には、その加害者に損害賠償責任があるため、選手は加害者に対して治療費や慰謝料などを請求することができます。
チームや指導者には、選手の私生活における負傷に対し、法的な責任を負う義務はありません。
ただし、チームによっては、選手の負傷に備えて、個別に保険に加入している場合もあります。
このような保険があれば、治療費の一部を補償してもらえる可能性があります。
選手自身も、万が一に備えて、傷害保険などに加入しておくことが重要になります。
スポーツ競技中や練習中による負傷
スポーツ競技中や練習中に負傷した場合には、加入しているスポーツ安全保険や団体保険などから給付(補償)を受けられる場合があります。
チームや主催者が保険に加入している場合には、その保険契約に基づく補償が行われます。
ここでいう「補償」とは、主にチームや主催者が加入しているスポーツ保険や団体保険からの給付を指します。
また、治療費や休業損害などは、加入しているスポーツ保険等の補償対象となる場合があります。
これは、選手がチームの活動の一環として練習・競技を行っており、チーム側が団体保険などに加入しているケースが多いためです。
また、選手が労働者として雇用されている場合には労働災害として扱われる可能性もあります。
労働災害と認定されれば、労災保険から治療費や休業補償が支払われます。
契約形態が委託契約などの場合、負傷時の報酬や保険給付の有無は、契約内容および加入している保険の種類によって異なります。
スポーツ選手が指導により負傷した場合に損害賠償請求できるのか
スポーツ選手が、指導者の指導によって負傷した場合、その指導内容が法的に問題あるものであれば、損害賠償請求ができる可能性があります。
とはいえ、実際に損害賠償請求できるかどうかは、各事案における指導内容の相当性、選手の年齢や技量、負傷の予見可能性、回避可能性などを総合的に判断しなければなりません。
また、何が社会通念上許容されるかは個別具体的な判断が必要となるため、非常に線引きが難しいといえます。
損害賠償請求ができないケース
指導者の指導が、競技の範囲内であり、社会通念上許容されるものであれば、損害賠償責任は生じません。
たとえば、指導者が「もっと高く跳べ」「もっと早く走れ」といった指示を出した結果、選手が負傷した場合などです。
このような指導は、選手の能力向上を目的としたものであり、危険を伴うスポーツの指導として、法に触れるものではありません。
選手は、自身の負傷のリスクを理解した上で、その指導を受けているとみなされるため、損害賠償請求は難しいでしょう。
また、指導者が怪我の状況を適切に判断し、休ませるなどの対応を取っていれば、指導者に責任を問うことは困難です。
スポーツの指導には、ある程度の厳しさや負荷が伴うことがあるという考えが一般的であるためです。
損害賠償請求ができるケース
指導者の指導が、行き過ぎたものであった場合、損害賠償請求ができる可能性があります。
たとえば、指導者が選手に対し、必要以上に過大な練習量を積ませた結果、負傷を引き起こした場合が考えられます。
このような指導は、選手の健康を著しく害するものであり、法的な責任が問われる可能性があります。
また、指導者が選手に対し、暴行やパワハラといった違法行為を行った結果、負傷した場合にも、損害賠償請求ができます。
さらに、競技施設が明らかに整備不足であり、その結果負傷した場合にも、施設の管理者やチームに対して損害賠償請求できる可能性があります。
競技施設が老朽化していたり、安全設備が不十分であったりするようなケースがこれにあたります。
指導者が選手の負傷を認識しながら、適切な処置を怠った場合も、損害賠償責任が生じることもあります。
まとめ
今回はスポーツ選手が指導により負傷した場合の損害賠償請求について解説しました。
スポーツ選手にとって、怪我は自身のキャリアに大きく関わることであり、また次回契約時の契約金交渉などにも影響があるものです。
不当な指導により負傷した場合には、指導者やチームに対して損害賠償請求をできるケースもありますので、悩んでいる方は当事務所にご相談ください。
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岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma
私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。
弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。
スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。
「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。
丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。
所属団体
- 福岡県弁護士会
- 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー
経歴
- S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
- H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
- H5.4 大阪大学法学部入学
- H9.3 大阪大学法学部卒業
- H10.10 司法試験合格
- H11.4 司法修習生(53期)
- H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
- H30.9 岩熊法律事務所開設
事務所概要Office Overview
名称 | 岩熊法律事務所 |
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所在地 | 〒812-0038 福岡県福岡市博多区祇園町2−35 プレスト博多祗園ビル4階 |
TEL/FAX | TEL:092-409-9367 / FAX:092-409-9366 |
代表者 | 岩熊 豊和(いわくま とよかず) |
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