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スポーツジムで負傷した場合に管理者責任を問えるのか

トレーニング中にけがをした場合、「自分の不注意」と感じて終わらせる方も少なくありません。

しかしジム側の設備や運営に問題があった場合は、管理者側の責任が問われる可能性があります。

今回は、スポーツジムでの負傷時に管理者責任が認められる条件や実際の事例をもとに解説します。

安全配慮義務とは

スポーツジムで負傷した場合、安全配慮義務違反が認められれば、管理者責任を問えます。

安全配慮義務とは、契約関係にある相手が心身に損害を受けないよう、環境や状況などに配慮する義務です。

雇用契約や施設利用契約などで広く認められています。

スポーツジムやフィットネスクラブなどの運営者は、利用者が安全にトレーニングできるよう配慮しなければなりません。

安全配慮義務に関連する考え方

事故やトラブルが起きたとき、「誰がどこまで責任を負うべきか」を判断するうえで重要なのが「予見可能性」「結果回避可能性」の2つです。

予見可能性

予見可能性とは、「その事故やトラブルが起きるかもしれない」と、事前に想像できたかどうかを指します。

たとえばジムの床が濡れている状況を見て、「誰かが滑ってけがをするかもしれない」と判断できる状態であれば、予見可能性があったとされます。

結果回避可能性

結果回避可能性とは、「実際に事故が起きる前に、その被害を防ぐための行動ができたかどうか」の観点です。

たとえばジムのスタッフが床を早めにふき取ったり、注意喚起の表示を出したりできる余地があれば、「結果回避可能性があった」とされます。

スポーツジム側が事故の発生を予測でき(予見可能性)、適切な安全対策を講じていれば防げたにもかかわらず(結果回避可能性)、その対応を怠った場合は安全配慮義務違反が問われる可能性があります。

管理者責任が問われる可能性があるケース

ジムでのけががすべて管理者の責任になるわけではありませんが、以下のようなケースでは責任が発生する可能性があります。

 

  • 機器の整備不良や老朽化による事故
  • 床の滑りや段差による転倒
  • インストラクターの指導ミス

 

それぞれ確認していきましょう。

機器の整備不良や老朽化による事故

トレーニングマシンの不具合や器具の破損は、点検や整備によって事前に発見できる可能性が高いため、予見可能性があると評価される可能性があります。

メンテナンスを実施すれば事故を防げたと考えられるため、結果回避可能性も認められます。

床の滑りや段差による転倒

汗や水分で濡れた床、マットのめくれ、目立たない段差などは利用者の転倒につながります。

床やマットのめくれなどの状態は、日常的に点検をしていれば十分把握できる部分です。

こうした状態を確認しながらも、それを放置した結果事故が発生したような場合は、安全配慮義務違反になる可能性があります。

インストラクターの指導ミス

トレーニングの指導中に無理な動作を強いたり、フォームの誤りを放置したりすることでけがが発生するケースもあります。

こちらも安全配慮義務違反があるかどうかが争点になります。

また、インストラクターは、スポーツジムなどに雇用されているのが一般的です。

場合によってはインストラクター本人だけでなく、ジムの使用者責任も問えます。

ジムの利用契約にある「免責条項」について

スポーツジムでは、会員登録時に「当ジム内での事故については一切責任を負いません」といった文言に署名を求められるケースがあります。

消費者契約法により「すべて免責」は無効

結論として、「当ジムは一切責任を負いません」という文言は、法律上無効になると考えられています。

根拠となる法律は、消費者契約法第8条第1項1号および3号です。

消費者契約法によれば、事業者に落ち度があって損害が出た場合でも「すべて責任を負わない」とする条項や、責任を負うかどうかを事業者自身が決められる条項は無効です。

ジムの管理不備で事故が起きたにもかかわらず、「一切責任を負わない」として利用者に何の補償もしないのは、法律上許されません。

損害賠償の上限を決める条項の取り扱い

損害賠償の上限を定める形で、一部の責任を免除しようとしている場合、一見すると法律上認められるように見えます。

少なくとも一部の金額を賠償する時点で、消費者契約法第8条第1項1号、3号のような「事業者の責任をすべて免除する条項」には該当しません。

しかしこうした一部免除も、場合によっては法律上無効です。

消費者契約法8条1項2号および4号によれば、「事業者が故意または重大な過失で損害を与えた場合には、一部免責する条項も無効になる」と定められています。

たとえば上限額を20万円に設定しても、事故の原因がジム側の故意や明らかなミスだった場合は、それ以上の賠償責任が発生する可能性があります。

けがをした際に取るべき対応

ジムでけがをした場合、以下の点を押さえておくと、後の責任追及や補償請求がスムーズになります。

 

【事故直後に行うべきこと】

  • けがの状況を写真に残す
  • その場でジムの責任者に報告し、記録を残してもらう
  • 第三者の目撃者がいれば連絡先を確認する

 

【帰宅後に行うこと】

  • 病院での受診と診断書の取得
  • 損害賠償請求の検討
  • 弁護士への相談

 

ジムとの交渉や、証拠の整理が難しい場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。

まとめ

スポーツジムでの負傷がすべて自己責任になるとは限りません。

機器の整備不良や指導ミスなど、ジム側に過失がある場合には、安全配慮義務違反による損害賠償を請求できます。

不安があれば、弁護士などの専門家に相談してください。

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岩熊 豊和弁護士

岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma

私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。

弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。

スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。

「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。

丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。

所属団体

  • 福岡県弁護士会
  • 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー

経歴

  • S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
  • H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
  • H5.4 大阪大学法学部入学
  • H9.3 大阪大学法学部卒業
  • H10.10 司法試験合格
  • H11.4 司法修習生(53期)
  • H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
  • H30.9 岩熊法律事務所開設

事務所概要Office Overview

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