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学校の水泳事故による損害賠償責任について事例と共に解説

夏になるとプールの授業が定番ですが、学校の授業などで子供たちが犠牲になる不幸な水泳事故が起こる可能性があります。

そのようなことになったら、損害賠償責任はどこにあるのでしょうか。

本記事では、学校の水泳事故による損害賠償責任について解説します。

水難事故における学校の監督責任とは?

水難事故における学校の監督責任は、おもに民事責任・行政責任・刑事責任の3つに大別されます。

このなかで、今回は民事責任について解説していきます。

 

学校の監督責任については、国公立学校と私立学校によって若干根拠が変わってきます。

国公立学校については多くの場合、「国家賠償法」が根拠となり、私立学校においては「民法」が根拠となります。

学校の監督責任を問うためには、どちらの根拠であっても「教師の指導監督において過失または安全配慮義務違反があった」ということが立証できなければなりません。

過失または安全配慮義務には、「結果の発生を予見する義務」と「結果を回避する義務」という2つのことが含まれているため、この2つのいずれかが欠けていたことを立証していく必要があります。

監督者が全く予見できないような事故に関しては損害賠償請求が難しいようなこともあるので、まずは事実を精査して、学校に監督責任を問えるのか否かを判断することが必要になってくるでしょう。

学校の水難事故における監督責任を認めた事例

では実際に、水難事故において、学校の監督責任を実際に認めた事例について、詳しく見ていきましょう。

京都で小学校1年生が夏休みのプール指導中に溺れて死亡した事故で、県や市が賠償責任を求められた事例です。

 小学校1年生が夏休みのプール学習で死亡 

京都地裁 平成26年地方裁判所311日判決の学校プールにおける死亡事故です。(判例時報223184頁)

 

夏休みのプール学習中、小学校1年生の児童がプールで溺れて死亡した事故で、県・市に対する国家賠償請求が認められた例です。

担当していた3教諭は監視義務を果たしていなかったという趣旨の判決でした。

 

このような判決に至った理由の1つは、担当教諭がプールに授業のために浮かべた巨大なビート板16枚が、皮肉にも水の中に沈んだ児童の姿を隠してしまったことです。

巨大なビート板があるため、児童が溺れても教師3名が気付かず助けられなかったという最悪の状況を生み出してしまいました。

 

そして2つめの理由は、動静監視をしていなかったことです。

当時、担当教諭のうち2名はプールに入って児童と遊んでおり、残り1名はプールサイドで掃除をしたり、プール内の児童に水をかけたりしていました。

つまり、3名のうち1人もプールサイドに立って、プール内の動静監視をしていなかったのです。

そのため、誰も児童が溺れた状況に気付かず、助けることができなかったので、裁判ではこの点を3教諭における3教諭による監視義務の怠りと判断しました。

仮に巨大なビート板で監視不可能な状態を作らず、3人のうち1人でもプールサイドで児童の動静監視をしていれば、溺れている児童を助けられたと考えられます。

したがって、被告は国家賠償法に基づく賠償責任を負うべきとされ、注意義務違反として、約3000万円の賠償を命じられました。

授業における水の事故の責任

上記の例でもわかりますように、学校のプールでの事故は学校側に責任がある可能性が高いです。

 

考えられる学校側の責任には、次のようなものがあります。

  • 排水溝の安全設備の経年劣化
  • 教師による監視ミス
  • 飛び込みするための安全な深度の不備

 

このように安全配慮義務違反と考えられるケースでは、公立学校の場合、公法上の関係に基づき損害賠償責任を負うと考えられます。

その場合、損害賠償責任を負うのは、学校を設置する地方公共団体です。

もしも、私立学校であれば、損害賠償責任を負うのは、学校や教師になると考えられます。

 

仮に学校の水泳事故が起こった場合、公立学校であれば、国家賠償法21項に基づいて責任を追求されます。

私立学校の場合は学校側に責任を追求しますが、その際は工作物責任(民法7171項)に基づいて責任を追求していくことになるのです。

まとめ

夏休み中の小学校におけるプール指導中に起こった小学校1年生の死亡事故学校の事故の責任について説明しました。

判決によると、当時授業を担当していた3教諭の注意義務違反となっています。

その理由は巨大なビート板16枚を浮かべていて溺れた児童の様子が見えなかったこと、3名のうち1名もプールサイドで動静監視を行っていなかったことです。

 

このように、事故の責任は学校側であることが多いです。

しかし、学校の責任を追及するのであれば、法律を味方にしていくため、親のみでは厳しいものがあります。

万が一、学校で水泳事故が起こった場合は、信頼できる弁護士に依頼することをおすすめします。

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岩熊 豊和弁護士

岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma

私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。

弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。

スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。

「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。

丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。

所属団体

  • 福岡県弁護士会
  • 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー

経歴

  • S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
  • H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
  • H5.4 大阪大学法学部入学
  • H9.3 大阪大学法学部卒業
  • H10.10 司法試験合格
  • H11.4 司法修習生(53期)
  • H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
  • H30.9 岩熊法律事務所開設

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