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武道の稽古で指導者の指示が違法行為になるケース

武道は稽古の内容や指導者から受けた指示が適切ではないことがあります。

今回は、武道の稽古で違法行為が起こったとき、どのような責任があるのか、また具体的に違法となりえるケースなどについて解説します。

武道の稽古で指導者が違法行為を行った場合の責任とは

武道の稽古や部活動において、指導者が行う指示や指導内容が法的な限度を超えた場合、指導者は重大な責任を負うことになります。

具体的には次のような責任が考えられます。

不法行為による損害賠償責任

武道の稽古中に指導者の不適切な指示によって生徒が怪我をしたり、後遺障害を負ったりした場合、民法709条に基づく不法行為責任が問われます。

武道には怪我のリスクが内在しているため、通常の稽古であれば、社会的相当性が認められる場合には違法性が否定されることもありますが、指導者が明らかに危険な状況を放置したり、過度な負荷を強いたりした場合は、過失が認められやすくなります。

具体的には、治療費、入院費、慰謝料、さらには将来得られるはずだった利益の損失である逸失利益などが賠償の対象となります。

指導者が個人で責任を負うだけでなく、学校や道場といった組織が使用者責任を問われる場合もあります。

不注意などによる安全配慮義務の責任

指導者には、生徒や部員の安全を確保するための注意義務である安全配慮義務が課されています。

これは、契約関係や特別な社会的接触関係にある当事者間において、一方が他方の生命や身体の安全を保護するように配慮する義務です。

武道の稽古においては、生徒の健康状態、年齢、体格、そして技量などを十分に把握し、事故の発生を未然に防止するための適切な措置を講じる必要があります。

たとえば、熱中症の危険がある高温多湿の環境下で無理な稽古を続けさせたり、防具の装着が不十分なまま実戦形式の練習をさせたりすることは、安全配慮義務に違反する行為となります。

刑事責任

指導者の行為が、単なる不注意を超えて悪質な場合、刑事罰が科されることがあります。

稽古中の事故であっても、指導者に過失があったと認められる場合は、業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります。

武道の指導は、反復継続して行われる活動であるため、法律上は、多くの裁判例で「業務」に該当すると判断されています。

また、指導の範囲を逸脱して生徒を殴打したり、過度な身体的苦痛を与えたりした場合は、暴行罪や傷害罪が適用されます。

武道の稽古において指導者の指示が違法行為となるケース

武道の稽古において指導者の指示が違法行為となるケースとして次のようなものが考えられます。

生徒の体力・技量・健康状態を考慮せず無理な稽古や危険な技を指示した

指導者は、個々の生徒の状況に応じた指導を行う義務があります。

そのため、生徒の体力・技量・健康状態を考慮せず無理な稽古や危険な技を指示した場合、違法行為となる可能性があります。

たとえば、入部したばかりの未熟な生徒に対して、十分な基礎練習を行わずに、熟練者でも危険を伴うような高度な技をかけさせたり、受け身が取れない状態での投げ技を指示したりすることが挙げられます。

指導者は、常に生徒の健康状態を観察し、異変があれば直ちに稽古を中断させ、休息を取らせる判断をしなければなりません。

技能格差がある者を事故の危険性を予見できたにもかかわらず適切な配慮を怠った

武道の稽古では、段位や経験の異なる者同士が対戦することがありますが、この際に指導者は細心の注意を払う必要があります。

圧倒的な実力差がある場合、初心者が大怪我をすることは容易に想像できるため、指導者には事故の予見可能性が認められやすくなります。

たとえば、体格差が2倍近くある相手と全力で組み合うように指示したり、荒い技を出すことが分かっている熟練者と初心者を対戦させたりした場合、指導者の過失が問われる可能性があります。

指導者は、単に対戦を命じるだけでなく、熟練者に対して「力を抜くように」と具体的に指示したり、常に目を離さずに監視し、危険を感じたら即座に割って入る準備をしたりする過程を省略してはなりません。

適切な配慮を欠いたままで行われる技能格差のある対戦は、安全管理上の重大な欠陥とみなされます。

稽古中に事故が発生した場合適切な対応を取らず被害を拡大させた

事故が起きてしまった後の対応も、指導者の責任の範囲に含まれます。

稽古中に生徒が倒れたり、身体の異常を訴えたりした場合、指導者には迅速かつ適切な応急処置や救急搬送の義務があります。

これを怠り、単なる疲れや怠慢だと決めつけて放置したり、無理に稽古を続行させたりして症状を悪化させた場合、被害を拡大させたことに対する責任を負います。

医療機関への連絡を遅らせたり、適切な医療知識に基づかない自己流の処置で済ませたりすることは、指導者としての適格性を欠く行為です。

体罰や暴力など人格権を侵害するような指導

教育の名を借りた暴行、侮辱、過度な叱責は、生徒の人格権を侵害する違法行為です。

具体的には、失敗をした生徒に対する殴打や蹴り、長時間正座を強いる行為、あるいは大勢の前での罵倒や人格否定などが挙げられます。

また、部活動においては、退部を不当に強要したり、連帯責任として丸刈りを強制したりすることも、パワハラや人権侵害に該当します。

これらの行為は、学校教育法およびスポーツ庁のガイドライン等により厳しく禁じられており、民事上の慰謝料請求の対象となります。

セクハラに該当する不適切な接触や言動も同様であり、指導者と生徒という圧倒的な上下関係を利用した心理的な支配は、法的に許容される範囲を大きく逸脱しています。

指導者は、自身の言動が生徒の精神的な健康にどのような影響を与えるかを常に自覚し、尊厳を傷つけない指導を心がけることが求められます。

まとめ

今回は武道の稽古で指導者の指示が違法行為になるケースについて解説しました。

武道は、指導者と生徒との力関係が大きいため、稽古中に違法行為が起こることもあります。

被害に遭った方や、指導の方法について不安がある場合にはスポーツ問題に詳しい弁護士へ相談することを検討してください。

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資格者紹介Staff

岩熊 豊和弁護士

岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma

私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。

弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。

スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。

「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。

丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。

所属団体

  • 福岡県弁護士会
  • 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー

経歴

  • S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
  • H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
  • H5.4 大阪大学法学部入学
  • H9.3 大阪大学法学部卒業
  • H10.10 司法試験合格
  • H11.4 司法修習生(53期)
  • H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
  • H30.9 岩熊法律事務所開設

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