プロスポーツ選手が相手選手を負傷させた場合の責任とは
プロスポーツの試合では、激しい接触によって相手選手が大きなけがを負うことがあります。
競技中の事故だからといって、常に法的責任が否定されるわけではありません。
プレーの目的や態様、競技規則、危険を認識・回避できた可能性などによっては、損害賠償責任や刑事責任が問題になることがあります。
ここでは、相手選手を負傷させたプロ選手が負う責任と、その有無を分ける判断基準を紹介します。
相手選手を負傷させたときに問われる責任
競技中の負傷で問題になり得るのは、民事責任、刑事責任、競技団体による処分です。
それぞれ根拠や判断主体が異なるため、いずれかが否定されても別の責任を問われる可能性があります。
民法709条に基づく損害賠償責任
故意または過失によって相手の身体を侵害した場合、民法709条に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。
競技中であっても、その場面において求められる注意義務に違反すれば、過失が認められ、損害賠償責任を負う可能性があります。
損害賠償の対象となり得るものとして、治療費や通院交通費、現実に生じた減収、慰謝料、後遺症による逸失利益などがあります。
プロ選手でも、欠場中に年俸が全額支払われている場合には、その年俸について現実の減収が生じていないことがあります。
一方、出場給や勝利給を得られなかった場合には、その不利益が損害として認められる可能性があります。
また、負傷によって翌年度以降の契約額が下がった場合には、事故との相当因果関係を立証できる範囲で、損害として認められる可能性があります。
傷害罪や過失傷害罪といった刑事責任
相手に暴行を加える故意があり、その行為によって相手を負傷させた場合には、刑法204条の傷害罪が成立する可能性があります。
故意がなくても、必要な注意義務を怠り、その結果として相手を負傷させれば、刑法209条の過失傷害罪に問われる可能性があります。
ただし、過失傷害罪は親告罪であり、原則として被害者の告訴がなければ起訴されません。
競技行為が刑法211条にいう「業務」にあたり、その業務上必要な注意を怠ったことによって相手を負傷させたと評価される場合には、業務上過失致傷罪が問題となる余地もあります。
もっとも、プロ選手であることだけで当然に成立するものではなく、競技の性質や具体的な行為、当該場面で求められる注意義務などを踏まえて判断されます。
リーグや競技団体による処分
危険な反則や報復行為に対しては、競技団体の規則に基づき、出場停止や罰金といった処分が科されることがあります。
民事・刑事上の責任とは別に判断されるため、刑事事件にならなくても処分を受ける場合があります。
所属チームとの契約更新や翌年以降の待遇に影響する可能性もあるでしょう。
プレー中の負傷で責任が否定される場合
競技中に生じた負傷のすべてについて、選手が法的責任を負うわけではありません。
競技に通常ともなう危険が現実化したにすぎず、相手選手に注意義務違反が認められない場合には、損害賠償責任が否定されることがあります。
競技に内在する危険が現実化した場合
スポーツには、適切にプレーしても避けられない危険があります。
コンタクトスポーツでは接触や転倒が予定されているため、競技の性質や具体的な状況に照らして通常許容されるプレーによって負傷した場合には、相手選手の過失が認められないことがあります。
ただし、競技への参加は、他の選手の過失による負傷まですべて承諾したことを意味しません。
社会的に相当な競技行為と認められる場合
刑事責任については、競技中の行為が、競技の性質や目的、具体的な行為の態様などに照らして社会的に相当なものといえるか、刑法35条の正当な行為として違法性が阻却されるかが問題になります。
競技の目的に沿った通常のプレーとして行われた行為であれば、相手が負傷した場合でも、直ちに刑事責任が認められるとは限りません。
もっとも、競技規則に違反したかどうかだけで刑事責任の有無が決まるわけではなく、行為の態様や危険性、故意・過失の有無、競技との関連性などを踏まえて具体的に判断されます。
反対に、プレーとは無関係な報復として相手を殴る行為は、競技中であっても、正当な競技行為として違法性が阻却されるものとは通常考えられません。
責任の有無を分ける判断基準
法的責任は、反則の有無だけで決まるものではありません。
競技の性質や具体的な試合状況を踏まえ、その場面において求められる注意義務を尽くしたかが重要になります。
ルール違反の程度と回避可能性
選手の安全を守るためのルールに著しく違反した場合には、民事上の過失や、刑事上の違法性が認められる方向に働くことがあります。もっとも、軽微な反則で偶然けがが生じただけでは、直ちに損害賠償責任が発生するとは限りません。
反対に、反則と判定されていなくても、危険を容易に認識・回避することができたにもかかわらず、必要な対応を取らなかった場合には、過失が認められる可能性があります。
競技の性質や行為の態様
判断にあたっては、接触が予定された競技か、プレーの流れで生じた行為か、接触の強さやタイミング、選手の技量など、具体的な行為の態様が考慮されます。
また、負傷の程度は、損害の範囲や賠償額を検討する上で重要な要素となります。
同じ強さの接触でも、競技によって許容範囲は異なります。
他競技の事例をそのまま当てはめず、具体的な規則や試合状況に即した検討が必要です。
相手選手を負傷させたときの対応
事故後は、試合映像や審判報告書、公式記録、競技規則などを早期に保存しておくことが重要です。
目撃した選手や審判の記憶も、聞き取って整理しておくとよいでしょう。
相手のけがについては、相手方から提示された診断書や診療報酬明細書等を確認します。
診療情報を一方的に取得することはできないため、必要な医療資料については、本人の同意を得て提供を受けるなど、適切な方法で確認する必要があります。
所属チームや競技団体、加入する保険会社への報告も必要です。
保険契約や保険約款によっては、保険会社へ連絡する前に独自に示談すると、保険金の支払いに影響する場合があります。
まとめ
プロ選手が相手を負傷させた場合、損害賠償責任のほか、刑事責任や競技団体による処分が問題になります。
岩熊法律事務所では、スポーツの現場で起きたトラブルに関するご相談を承っております。事故を理由に損害賠償を請求された方や、競技団体から処分を受ける可能性がある方は、お早めにご相談ください。
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資格者紹介Staff
岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma
私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。
弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。
スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。
「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。
丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。
所属団体
- 福岡県弁護士会
- 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー
経歴
- S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
- H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
- H5.4 大阪大学法学部入学
- H9.3 大阪大学法学部卒業
- H10.10 司法試験合格
- H11.4 司法修習生(53期)
- H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
- H30.9 岩熊法律事務所開設
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