運動部活の顧問からの精神的苦痛に対して法的措置は取れる?
運動部の顧問による指導が、単なる教育の枠を超えて精神的な苦痛を与えるものとなっている場合、それは法的な問題として扱うことができます。
学校や部活動という閉鎖的な環境であっても、他者の尊厳を傷つける行為は許されるものではありません。
今回は、運動部活動の顧問からの精神的苦痛に対して法的措置が取れるのか、その基準や対応の手順について解説します。
顧問による行為が違法となる判断基準
運動部活動において顧問が行う指導は、その目的や手段、態様が社会的に見て妥当な範囲内である必要があります。
精神的な苦痛を与える行為が違法とみなされるかどうかは、以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
指導の目的と手段の正当性
教育や技術向上のために必要とされる範囲を超えているかどうかが、最初の分かれ目となります。
たとえ勝利を目指すという名目があっても、特定の生徒を執拗に追い詰めたり、人格を否定するような言葉を浴びせたりする行為は、正当な指導とは認められません。
たとえば、本人のミスに対して、技術的な助言ではなく「生きている価値がない」といった暴言を吐くことは、指導の目的を逸脱した不法行為となる可能性が高いと言えます。
社会通念上の相当性
その行為が一般社会の常識に照らして許容される範囲内であるかどうかが問われます。
長時間の正座を強いたり、部員全員の前で見せしめのように罵倒を続けたりする行為は、相当性を欠くとみなされる傾向にあります。
部活動という環境特有の厳しさを考慮したとしても、個人の心身に深い傷を負わせるような扱いは、権利の侵害に該当します。
講じることができる主な法的措置
顧問からの精神的苦痛に対しては、民事、行政、そして場合によっては刑事の側面から対応を検討することが可能です。
民事上の損害賠償請求(慰謝料請求)
顧問の指導が不当である場合、行えることとして民法に基づき、精神的苦痛に対する慰謝料を請求することが考えられます。
顧問個人の責任を追及するだけでなく、学校側に対しても責任を問うことができます。
公立学校の場合は、国家賠償法に基づき、自治体に対して賠償を求める流れとなります。
私立学校の場合は、民法上の使用者責任を追及することで、学校法人に対して賠償を求めることが可能です。
通院が必要になった場合の治療費や、後遺障害が残った場合の逸失利益なども、損害の内容に含まれます。
刑事告訴や告発
顧問の言動が極めて悪質である場合には、刑法上の罪に問うことも検討されます。
暴力を伴わなくても、周囲に聞こえる場所で侮辱的な発言を繰り返せば侮辱罪、生命や身体を脅かすような言葉を吐けば脅迫罪などが成立する可能性があります。
行政上の処分や是正の申し立て
学校や教育委員会に対して、顧問の交代や懲戒処分を求める申し立てを行うことも有効な対応となります。
学校内でのハラスメント防止規定に基づき、適切な調査と処置を求めることができます。
内部での解決が困難な場合は、法務局の人権擁護機関へ相談し、改善を促す勧告を出してもらうことや弁護士へ依頼することが考えられます。
部活の顧問の処罰を求めるときに重要となる証拠
顧問の非を証明し、納得のいく解決を導き出すためには、客観的な証拠が必要となることがあります。
具体的には以下のとおりです。
音声データの録音
暴言や不適切な指導が行われている現場の音声を録音しておくことは、極めて有力な証拠となります。
スマートフォンやICレコーダーを使用し、どのような文脈でどのような発言があったのかを記録に残します。
無断録音であっても、自身の権利を守るための正当な理由があれば、証拠として認められるのが一般的です。
日記やメモによる詳細な記録
被害を受けた日付、場所、周囲にいた人物、そして顧問の言動とそれに対する自身の反応を逐一記録します。
一貫性のある詳細な記録は、被害の深刻さを伝えるための重要な根拠となります。
後からまとめて書くのではなく、その都度、新鮮な記憶のもとに記しておくことが信憑性が高いと言われています。
学校側の安全配慮義務違反
学校は、生徒が安全な環境で学習や部活動を行えるように配慮する義務を負っています。
顧問による嫌がらせや精神的虐待が行われていることを知りながら放置していた場合、学校側も安全配慮義務に違反したとみなされます。
管理職である校長や教頭が、被害の相談を軽視したり、隠蔽を図ったりした事案では、組織としての責任がより厳しく問われることになります。
まとめ
今回は、運動部活動の顧問からの精神的苦痛に対して法的措置が取れるのかを解説しました。
指導の名を借りたハラスメントは決して容認されるべきではありません。
そのため本人や保護者から相談があった場合には、法的な手続きを通じて顧問の責任を追及することが可能です。
しかし、学校の問題はなかなか露見しにくく、ご自身だけで対応することは難しいともいえます。
したがって、学校の部活や授業で教師から度を超えた指導を受けたなど、お困りの方は学校問題に精通している弁護士にご相談ください。
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資格者紹介Staff
岩熊 豊和Toyokazu Iwakuma
私は小学校入学と同時に野球を始め、楽しく真剣に打ち込んできました。
弁護士登録後も野球チームに入り、たくさんの選手の笑顔を見ている中で、「野球が好きだなぁ」という思いを改めて実感いたしました。
スポーツの現場では、暴力行為やパワハラ、いじめなどさまざまなトラブルが発生しているものの、選手が泣き寝入りをする結果となってしまうことも珍しくありません。
「スポーツを楽しむという原点を取り戻すこと」を目標に、スポーツを心から楽しむ選手を守るためリーガルサポーターとして日々取り組んでいます。
丁寧にお話をお伺いいたしますので、お悩みの方はぜひ当事務所へお問い合わせください。
所属団体
- 福岡県弁護士会
- 公益財団法人日本スポーツ協会ジュニアスポーツ法律アドバイザー
経歴
- S47.11 福岡県飯塚市に生まれる
- H3.3 福岡県立東筑高等学校卒業
- H5.4 大阪大学法学部入学
- H9.3 大阪大学法学部卒業
- H10.10 司法試験合格
- H11.4 司法修習生(53期)
- H12.10 弁護士登録、はかた共同法律事務所入所
- H30.9 岩熊法律事務所開設
事務所概要Office Overview
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